現存しない札幌の店




札幌に引っ越してきて10年程になる。

札幌は大都市だが、全国の都市に比べてコンパクトな印象の街だと思う。駅前通りから南へ向かえば、狸小路を過ぎてすすきの。テレビ塔から大通公園を通って西に出れば円山方面だ。にぎわっている場所が限られた範囲にまとまっていて、札幌市民なら頭の中にだいたいの地図を描くことができる。通りやビルの大枠が10年経ってもあまり変わらない。それでも無くなってしまった思い出の店を時々思い出すことがある。

まだ「ヒロシに18時集合」なんて言われても、集合までに相当の時間が必要だったころの話、友人がたまには喫茶店に行ってみたいといいはじめた。

狸小路2丁目から少し歩いたファーストフード店で、たぶんいちごシェイクなどを飲みながらその話をしていた。珈琲がシェイクの3倍の値段で出てくる意味がわからないと思っているくらい子供だったが、興味がないわけではなかった。後日、友人と連れ立って狸小路4丁目からアーケードに沿って西へ歩いた。

まだ外国人観光客は少なく、土産屋や変わった (店先で唐突に軍帽?を売るような) 個人店があちこちに点在していた頃。私たちはアーケードが途切れる7丁目の端に目指す店を定めた。古書店の向いにあった青い看板の店。茶色と青の2色で軒がついた地下の店だった。看板に書かれた店名も洋風のその字体もいつも見ていたが、様子が見えない喫茶店に入る勇気がない。私も友人も行ったことがない店だった。私は昭和の最後尾に生まれたからか18歳なのに古物好きで必要以上に西洋好きなところがあったので、階段の下から立ち込める好みの気配をなんとなくキャッチして気にはなっていた。

さて、狭い階段を下りていくとギッギッと音がした。先に入った友人の後に続いて顔を上げると無言のままの友人と目が合った。 想像上の喫茶店と違う空間が広がっていた。赤いじゅうたん、背中の角ばったソファまでは予想していた。だが、店の一番奥に天井まであるような大きなスピーカーが鎮座し、ソファが対面ではなくスピーカーの方を向いている。前の椅子の背中部分に飲み物を乗せるテーブルを置いていて映画館のようだと思った。名曲喫茶だった。

想像の斜め上を行く配置に動揺しながらも平静を装ってメロンソーダを注文した。友人の背筋がいつもより伸びている。いつものファーストフードでのおしゃべりのようなつもりで入店してしまったが、はたして突然の場違いにどう対応するか。いま友人の顔を見ると笑ってしまう。私はというと運ばれてきたメロンソーダの水面の緑色のところだけを見て懸命に取り組んだ。大きな声を出してはいけないと思うほど笑いがこみあげてきて、ストローの袋が飛んだだけで吹き出しそうになった。

そんな背伸びをしてのぞいた名曲喫茶も今はもうない。札幌は大きな街のわりに繁華街がこじんまりしている。大きな建物や基本の道が変わらないだけに、路地から10歳若い自分が何の気なしに出てきたり、無くなったお気に入りのカフェの場所に何気なくまだ座っているような気がする。進化できなかった性格や悪癖を抱えたままふとした時に出くわしたら、やだな。

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